〜明暗分かれた2つの試合〜 第21節ラツィオ戦・第22節サッスオーロ戦 マッチ比較
- しゅー
- 2020年2月4日
- 読了時間: 13分
⚠️この記事は私の個人ブログ「Directions〜サッカー戦術分析〜」の転載となります。ご了承ください。
セリエA公式様より
お久しぶりです。久しぶりすぎて、文字の大きさの設定忘れました。 どうも、しゅーです。
1ヶ月ぶりの執筆となりました。 この1ヶ月は高校最後の定期テスト・自動車学校・入社前準備と怒涛の1ヶ月を過ごしておりまして、「サッカーを90分間フルで見るなんてとんでもない!」というような状態でございました。2月に入り高校の方は家庭学習期間となり入社前準備もひと段落、自動車学校もあと1週間ほどで卒業(の予定)となりました。 その間にローマの方は二度のユヴェントス戦もあり、さらには3バックなんてシステムも披露したようですね。見たかったです本当に。 さて、今回は先週行われた第21節ラツィオ戦、そして第22節サッスオーロ戦について取り上げていきたいと思います。 Twitterを見た感じ、この2試合の内容の差が凄かったそうですね、、、。 ということで今回は初の試み。 「明暗分かれた2試合の徹底比較」 というテーマで記事を書いていきたいと思います。

ローマはこの2試合、全く同じスターティングメンバーで望みました。 ラツィオ戦の一つ前の試合となるユヴェントス戦(コッパ・イタリア)からの変更点としては、コラロフ、フロレンツィ、怪我のディアワラの3つのポジションが挙げられます。両SBが違うメンバーということもあり、戦術的に変化が見られた点もありました。 それではラツィオ戦から細かく見ていきます。
ラツィオ戦

ローマは攻撃時に3-2-4-1となるお得意の可変システムを採用。図のように、選手の配置自体はいつもと変わらない見慣れたシステムとなってます。しかし、違うのはポジション毎の選手の動きです。 今まではボランチのディアワラがCB間に降り、CBが開いた3CBの形をとっていました。しかしディアワラは現在離脱中。2ボランチを形成している2人はどちらも「守備的」とは言いづらいタイプのMFです。そこでフォンセカ監督はフィジカルに優れたサントンを右SBに起用。スモーリング、マンチーニ、サントンで可変3CBを形成しました。 前線では中盤3人+クライファートで四角形を常時形成。4人の激しい上下運動で敵CHを釣り出し、敵の1ボランチに対して中盤2枚で崩すという形を作ることができました。 時にはクライファートが後方に残り、攻撃を見守るなんてこともあり「後ろに人を残す」というのが徹底されてるなと感じました。 サイドはWGのウンデルとSBのスピナツィオーラが高い位置を取ることで敵WBを押し下げ、それによりラツィオは5-3-2のブロック守備を敷くことを強いられました。 そうしてできたローマの攻撃陣形。図で見ると分かるように「コ」の字を作るようにスペースが出来上がり、そこを起点にゲームを支配していきました。

終始ローマが主導権を握っていたこの試合。僕の目にはこのようなサイクルが見えました。 ボール保持からポゼッションまでは先述した通り。そこからPA内に入っていくような攻撃の際は3CB+「ボールと逆サイドのボランチの位置にいる選手」の4人でリスク管理。この試合のラツィオの2トップは、何かあったんじゃないかと思うくらい守備をサボっていたため孤立。4対2の数的優位を作り、ラツィオの武器であるカウンターを抑えました。 1-1のまま試合が終わったこの試合。試合を通して両チームに大きな変化は見られませんでした。しかし後半。ラツィオが少し高めの位置でプレスをかけ始めると、ローマのビルドアップは一変。バタついてミスをしたり、中盤でボールを奪われショートカウンターを喰らうことも多々ありました。 サッスオーロ戦では、試合終盤に見せたこのウィークポイントを突かれることになるのです。
サッスオーロ戦

件のサッスオーロ戦。4-4-2の守備陣形を敷いたサッスオーロはまず、CBから2ボランチへのパスコースを塞ぎながらプレスをかけていきます。ラツィオと若干形は違いますが「2トップでボランチを消しながらのプレス」という意味では似ているとも言えます。では、どこに違いができたのか。答えは「3バックと4バックの違い」にあります。3バックの場合、敵のサイドアタッカーとマッチアップする選手はWBとなり、基本的にはサイドでの1対1の局面が多くなります。ラツィオの場合、それによってWBが押し下げられゲームを支配されてしまいました。しかし4バックでは、まずSHがマッチアップし抜かれたところをSBがカバー。サイドでの数的優位を活かした守備ができるのです。そのようなフォーメーションの違いによる弊害がローマの両サイドを無効化。しかも、ボールの逆サイドのSHが絞ることで同サイドのCBを牽制。ローマは「コ」の字のポゼッションができなくなり「1」の字のボール回し、つまり、プレスを受けながら最終ラインでボールを回すだけという状況になってしまいました。前線でシャドーの位置となるペッレグリーニとクライファートは敵2ボランチのゾーンディフェンスにより機能せず。ラツィオ戦のような攻撃が展開されることはあまりなかったように思えます。 続いて守備面。こちらも問題大アリでした。

フォンセカ監督就任後すっかりお馴染みとなった、マンツーマンハイプレスを披露。今まで上手くいってたから納得の采配でしょう、、、とは言えません。このマンツーマンハイプレス。3バックの相手に対しては強いのですが、4バックとなると話は変わってくるのです。
なぜか。簡単です。3バックに対してはCFとWGの3人でプレスをかければ完全に嵌めらるのですが、4バックとなると中盤から1人前線へ出ていかなければならないのです。ローマのフォーメーションだとそこで中盤にスペースができ、敵の中盤は少し動いただけでフリーの状態が作ることができるのです。さらにこのサッスオーロというチーム。率いているのはデゼルビ監督という方で「イタリアのグアルディオラ」とも呼ばれています。デゼルビがグアルディオラたる所以はサッスオーロのサッカーをみると一目瞭然。相手のプレスを躱す技術と配置、それを成立させるのはグアルディオラも崇拝する「ポジショナルプレー」という概念。そんなチームにハイプレスをかけたところで躱されるだけであり、中央にスペースを与えてしまうのは愚行とも言えます。もちろんそのスペースを埋めるだけの守備能力を持つボランチがいれば話は別です。しかしこのローマの2ボランチ、1人は中盤を飛び出し敵CBまで爆走、そしてもう片方は元々前任のディフランチェスコ監督がIHとして連れてきた攻撃的なMF。守備に長所があるタイプではありません。そうして空いたスペースを使われ奪われた1失点目。クリスタンテが敵トップ下に背後を取られ、ショートカウンターのような形で先制されてしまいました。その後も同じような感じで2失点。0-3という早朝の眠たい頭には刺激的すぎるスコアで前半が終了しました。
しかしフォンセカ監督も、前半のうちに何も手を打たなかったわけではありません。

ローマは前半終盤、クリスタンテをCB間に下げ図のような形でのビルドアップを開始しました。この形は前回の記事でも紹介した「いつものかたち」。最終ラインで3対2の数的優位を作ることができ、2トップの相手に対して有効とされている「ダウン3」「サリーダ・ラボルピアーナ」と呼ばれる攻撃戦術です。いつもならCB間に入るのはディアワラですが、今回はクリスタンテが代役を務めました。縦パスの上手さという面ではディアワラに勝るとも劣らないクリスタンテ。チャンスメイクが期待されます。さらに前線では両WGが中に絞りハーフスペースにポジショニング。DFとMFの中間に位置し、後方からのパスを引き出します。両WGが中に絞ったことで中盤で3対(敵の)2(ボランチ)の数的優位の状況を作り出すことができ、後半になるとそれを活かした良い攻撃が見られることがありました。 ラツィオ戦では試合開始から中盤で数的優位が作ることができていましたが、この試合の入りはトップ下のペッレグリーニと絞ったクライファートの2枚に対して、敵2ボランチが常にゾーンディフェンスで注意していたため上手く崩すことができませんでした。そういった状況を観戦者である私たちのような「俯瞰」の立場ではなく「平面」であるピッチサイドから感じ取り修正することができるフォンセカ監督は、やっぱり凄いなと思います。 では、なぜこの反撃の一手が試合を覆すことができなかったのか。 まずはこの中盤3枚の流動性の無さです。中盤で数的優位を作り出したのにも関わらず3人は「DFとMFのライン間で受ける」というタスクに取り憑かれてしまいました。(時々、クライファートが降りてビルドアップに参加することもありましたが、もともとクライファートがいたスペースに入る選手がいなかったためビルドアップは停滞していました)ラツィオ戦のような上下運動で相手を崩すシーンは52:45と62:30の2回だけ(多分)で「もっと動いて!!」と言いたくなるようなビルドアップを見せらてしまいました。 そして次に、クリスタンテの守備能力の不足です。先ほども言いましたがクリスタンテはもともとIHとして連れてこられた攻撃的なMFであり、パス能力ではディアワラに引けを取りません。しかし守備の面では物足りないものがあり、前半の3失点は全てクリスタンテのネガティブトランジション(ボールロスト直後)の切り替えの遅さやチェックの甘さが起因した失点とも言えます。後半こそ少し改善されていたものの、やはり前半の3失点は痛かったです、、、。 そして最後は、プレス耐性の無さです。ラツィオ戦でも試合後半にプレスをかけられ始め、ドタバタしてビルドアップが上手くいかない時間帯がありました。さらに中盤で奪われショートカウンターを喰らうというシーンもあり、いつ失点してもおかしくないという状況でした。サッスオーロからは、そのウィークポイントを的確に突いて、中盤で奪ってショートカウンターという狙いを強く感じました。そこにさらに先述した守備の脆さも相まって、ローマは何度もピンチを迎えてしまいました。 フォンセカ監督は後半開始という早い段階でサントンを下げ、よりサイドで生きる(ような気がする)ブルーノペレスを投入。さらに65分にはウンデルに代えてカルレスペレスを投入し攻撃の活性化を計りました。が、その矢先にぺッレグリーニが退場。その後リゴーレを獲得し1点差まで詰めたものの「ブロック敷いて失点抑えるしかない」という状況になってしまいました。 しかしローマ。2点目を奪った後の相手のキックオフで、なんとマンツーマンハイプレスを敢行。フィールド全体で常に数的不利を作られている状況にも関わらず、ヴェレトゥまで飛び出す「ガンガン行こうぜ」作戦。これには流石に「????」となってしまい、いつの間にやら4失点目を浴びていました。だって考えても見てください。10対11ですよ?相手はサッスオーロですよ?デゼルビですよ?11対11でも崩されていたのに10対11で止められるわけないじゃないですか。声を大にして言いたいです。「その采配はヤバイ」と。「強豪の意地」と言われれば何とも言い返せなくなるんですがチーム状況はそんなこと言っている場合じゃないと思いますので、これから改善していけば良いなと思います。
まとめ
なぜラツィオにはいいゲームができたのか?
・3CBに対しての3トップでのプレス ・中盤の上下運動で敵3MF(2CH+1DH)のうちのCHを1枚釣り出し、2対1(DH)の状況を作ることができた。 ・可変3CBで敵2トップに対して常に数的優位を作ることができた。 ・可変3-2-4-1のWBの位置になる選手(ウンデル、スピナツィオーラ)が高い位置を取ることで敵WBを押し下げ、それにより敵ブロックの外で試合を支配することができた。
→フォーメーションの噛み合わせ◎
なぜサッスオーロに負けたのか?
・4バックに対して3トップ+中盤の選手の4人でプレスに行ったため中央にスペースを作ってしまった。 ・サッスオーロのプレス回避が上手かった。 ・中央に流動性が無くスペースを突く攻撃ができなかった。 ・1トップに対して3CBで守る形になり、トップ下をフリーにさせてしまった。 ・ウンデル、スピナツィオーラが高い位置を取っても、SH・SBの2人を相手にすることになり、そこでボールロストしてしまった。 ・中盤で強いプレスをかけられボールロスト、攻→守の切り替えが遅くショートカウンターでゴールに迫られた。 ・4-4-2のゾーンディフェンスを崩せなかった。
→フォーメーションの噛み合わせ✖️ ↓ 相手に合わせたフォーメーション・戦術が必要!!
という結論になりました。
ラツィオ戦・サッスオーロ戦の比較は以上になります。結論として「相手に合わせたシステムの構築」ができなかったのが問題、という風に言いましたが、「自分たちのやり方」を貫くチームももちろんありそれが不正解だとは言うつもりはありません。 しかしサッカーの戦術というものの歴史は古いのです。例えば現在グアルディオラが率いるマンチェスターシティ。「5レーン理論」というピッチを縦に5分割する概念を取り入れ、チェスや将棋のように選手の配置で優位に立つサッカーをします。5レーン理論は4バックに対して効果的で、プレミア2連覇という偉業を成し遂げる原動力になりました。しかし今シーズン、シティは苦しんでいます。それはなぜか。5レーンを使った攻撃を止めるための手段としてシティに対して5バックで守るチームが現れたり、ボランチの一角がCBとSBの間のケアに専念してハーフスペースを使わせないような守備をするチームが現れたからです。 そういった「強いチームに負けないための戦術」の考案の連続が現代のサッカー戦術を作り出し、また未来の戦術がこれから作り出されていくのだと僕は思います。チームの色だったり、自分たちのサッカーというものを貫くことも大切ですが、勝つためには様々なサッカーに対応する柔軟性が大切であり、それをチームで共有することが必要不可欠になってくるのです。
なんか、全然関係ない話しちゃったな。。。 今の日本代表の試合とかの評価を見てると「森保やめろ」だとか「俺が監督やったほうがいいわ」とか言ってる人もいますが、僕はそんなこと言いません。炎上したくないし、僕が監督やっても絶対に勝てないので。 高校の部活時代(今も高校生ですが)僕らの練習態度を見て怒った顧問が「今週1週間は部活見ません!今週リーグ戦あるけどそれも自分たちでやれ!」と言い放ち、練習メニューからスタメンまで自分たちで全て決めなければいけない状況になったことがあります。その1週間はGKとしての試合出場を後輩に任せ、僕は練習メニューの考案、スタメンの決定、試合の指示を行う「監督代理」的な役割をしました。僕ここで監督やってるんです。実は。 その1週間はまあ大変でした。試合の指示とかメニュー考案も大変でしたが一番は、選手のメンタルを考えることでした。僕の練習メニューが気に食わないのか、試合に出ねえっていう選手もいる(結局出てくれましたが)、いつもベンチだった選手の中に「今しかない!」という感じで試合出せ出せ言ってくる選手もいる。スタメンを決めるのは自分なので、もうどうしようという感じで試合に臨んでしまいました。 結局、選手たちが頑張ってくれたおかげで試合には勝てまして、今思うととんでもない経験したなと痛感します。 そんなこともあり、「監督」という立場の人間は本当に尊敬しています。 なので森保監督。僕は、応援していますよ!!
また全然関係ない話をしてしまいました。お詫び申し上げます。 リーグ3位のラツィオにあれだけの試合ができながら、格下のサッスオーロに完膚なきまで叩かれてしまう。その原因となってるのは、敵チームの戦術の違い。 サッカーにおいて戦術がどれほど重要なのかが痛いくらい理解できた2試合になったと思われます。 次節ボローニャ戦でフォンセカ監督が何か変えてくるのか、期待したいです。 では、Ci sentiamo!!
セリエA公式様より
Comments